Kotlin
A concise multiplatform language developed by JetBrains
KotlinConf 2026 基調講演ハイライト: 言語設計、各種ツール、AI 駆動型ワークフロー、およびマルチプラットフォーム開発の進歩
Kotlin は今年で 15 周年を迎え、今やあらゆる場所で使用されています。この技術はタップして支払う、通勤電車の切符を購入する、機内エンターテインメントを利用する、さらにはオンラインで確定申告を行うといった日常シーンを支えるシステムの基盤となっています。AI がソフトウェアの開発手法を変え続ける中、Kotlin が実社会で果たす役割が拡大していることはチームが複雑な物事を管理し、アイデアを明確に表現し、自信を持って信頼性の高いシステムを構築するのに役立つ言語やツールの重要性を物語っています。
KotlinConf 2026 では、JetBrains チームと業界のパートナーがあらゆる規模の開発者を対象に Kotlin が継続的に進化していることを紹介しました。基調講演では言語設計、各種ツール、AI 駆動型ワークフロー、マルチプラットフォーム開発における進歩にスポットが当てられました。これらはどれもあらゆる場面でモダンなアプリケーションを構築する際に Kotlin 開発体験を向上させることを目的としています。
進化する Kotlin
AI 駆動型開発で抽象化のレベルが高まるにつれて、プログラミング言語への信頼性がこれまで以上に重要になっています。Kotlin の主任言語デザイナーである Michail Zarečenskij は、自身のチームが Kotlin を通じてあらゆるレベルでそのような信頼性を提供することを目指していると述べました。人間工学と安全性は、この言語の根幹をなす指針となる原則です。
Michail は Kotlin の進化における次のステップであり、より安全で扱いやすいコードを目指した Kotlin 2.4.0 をプレビュー公開しました。安定化されている機能には、API の表現力を高めてコアロジックに的を絞ったコンテキストパラメーターや、一般的なバッキングプロパティのパターンを単純化し、定型コードを削減して安全性を向上させる明示的なバッキングフィールドなどがあります。
このプレゼンテーションでは、通貨や色などのドメイン固有のデータをモデル化する複数フィールドの値クラスをを含む複数の実験的な言語機能も取り上げられました。値クラスの主な特徴には、以下があります。
- コンパイラーが
equals()、hashCode()、toString()などの関数を自動的に生成する。 - 値クラスはより安全な名前ベースの分割宣言をデフォルトで使用する。
- 値クラスは同一性のセマンティクスがなく、そのプロパティによって完全に定義される。

これらの変更はデータ操作の安全性を高め、表現力を高め、長期的な効率性の向上を目的としています。
このプレゼンテーションでは第一級言語概念としての局所性に加えて、回復可能な失敗の表現と処理に対する新しい手法である「リッチエラー」にスポットが当てられました。
Kotlin エコシステム
各種ツールは Kotlin の歴史の当初から重要な役割を果たしてきました。Kotlin がエージェントや統合を含む新しいワークフローへと拡大する中、そのエコシステムでは人間工学と安全に関する基本原則が変わらずに実践され続けています。その目的は、どんなエディター、ビルドツール、エージェント型フレームワークを使用しても一貫性のある開発体験を実現することです。
重要な発表内容の 1 つには、Kotlin エコシステムへの一元的なエントリポイントである Kotlin Toolchain がありました。1 つのコマンドで利用可能な Kotlin Toolchain は、アプリケーションの作成、ビルド、実行、テストからコードの整形、ドキュメントの生成、エージェントとの統合に至るすべての機能を網羅しています。

本日より、JVM およびマルチプラットフォームプロジェクトで Kotlin Toolchain の中核をなす Amper を使用してアプリのビルド、実行、テストを行えるようになりました。今後、Kotlin Toolchain は LSP 統合、AI スキル、ネイティブ依存関係のプロビジョニングなどによってさらに機能が拡充される予定です。これまでと同様に、JetBrains は初期状態で最高の体験を提供するために IDE との緊密な統合も導入しています。

このプレゼンテーションでは Kotlin の中核をなし、機械可読なドキュメントを kdoc.jar 形式で表現する Kotlin Documentation Model も紹介されました。この特殊で下位互換性のある形式はライブラリと共に公開され、IDE や Dokka などのウェブツール、そして AI エージェントによって利用されることになります。
また、Kotlin Language Server がアルファ版に昇格したという重要な発表もありました。IntelliJ エンジンの全機能を駆使した LSP は、診断、コード補完、各種ツールのサポート全体にわたってより一貫性のある体験を提供します。Visual Studio Code 用の公式 Kotlin 拡張機能が Visual Studio Marketplace でも提供されるようになりました。

JetBrains と Meta は Kotlin Foundation の取り組みの一環として、ktfmt を標準化して Kotlin の中核的な要素にする作業を開始しました。
このチームはオープンソースコミュニティとの継続的なコラボレーションを通して Bazel 公式の rules_kotlin に最高水準の Kotlin サポートを導入し、大量のモジュールからなる大規模なコードベースでも Kotlin を使用しやすくするとも発表しました。
Google における Kotlin
Google は 10 年以上にわたって Kotlin を本番環境で使用しており、現在ではプロの Android 開発者の 92% が Android アプリケーションの開発に Kotlin を使用しています。

基調講演では K2 コンパイラーに関する Google と JetBrains の継続的なコラボレーションについてもスポットが当てられました。Google チームは Android Studio で K2 の安定したサポートを開始して以来、Kotlin がほぼ全面的に導入されていることを確認しています。Google が開発と保守を行っている Java アノテーション処理に対する Kotlin のソリューションである Kotlin Symbol Processing は、複雑なビルドの実行時間を 17% 短縮することに成功しました。また、Android のプログラム全体を最適化するツールである R8 では、同チームがコルーチンライブラリ内のログを記録するコードからリフレクションの使用をなくす最適化処理を追加できるようになり、これによって Compose のパフォーマンスベンチマークで 50% の改善が見られました。
Kotlin の各種 AI ツール
基調講演では Kotlin 開発向けの次世代 AI ツールについても焦点が当てられました。当社は JetBrains IDE 内で任意のエージェントを直接使用できるようにしたいと考えています。JetBrains はこの取り組みを支援するため、IDE とコーディングエージェント間の通信方法を指定するオープン規格である Agent Client Protocol(ACP) の開発を共同主導しています。詳細については、専用のブログ記事「2026 年の方針: JetBrains IDE における AI と従来のワークフロー」をご覧ください。

Junie
JetBrains のコーディングエージェントである Junie は、JetBrains IDE と緊密に連携しており、CLI バージョンの Junie でも IDE に接続してプロジェクトの完全なコンテキストを取得できます。Junie はさまざまな LLM プロバイダーとの連携にも対応しているため、特定のタスクに最適なモデルを選択できます。Junie はすでに Kotlin プロジェクトに対応しており、今回は Android 専用のサポートも追加されました。

JetBrains Air
開発者がエージェントを活用して生産性を高めていく中、基調講演ではエージェントベースの開発ワークフローを拡大する方法についても考察されました。JetBrains Air は複数のエージェントと効果的に連携するためのエージェント型開発環境です。

OpenAI Codex、Claude Agent、Gemini CLI、Junie が互いに干渉することなく、独立したタスクループを実行できます。エージェントは個別の Git ワークツリーか Docker コンテナー内で起動できます。また、チーム全体で進捗状況を共有できるようにするため、近日中にはクラウドエージェントの使用が可能になり、ブラウザーからエージェントを直接起動して操作できるようになります。

Anthropic と JetBrains
欧州の Anthropic で応用 AI エンジニアリング部門のリーダーを務めている Christian Ryan 氏が基調講演に登壇し、各種 AI ツール、ライブラリ、開発ワークフローの各分野で Anthropic と JetBrains 間の協力関係が拡大していることを紹介しました。Anthropic は自社の公式 JVM SDK を開発する際に Kotlin を使用し、これによって人間工学的に優れ、簡潔で null 安全な言語で SDK を作成できるようになりました。このコラボレーションの対象には、公式の Kotlin MCP SDK も含まれています。
ツールの面では、Claude が現時点で IntelliJ IDEA と Android Studio にネイティブ対応しています。Claude は Junie と JetBrains Air のファーストパーティモデルでもあります。CLI ユーザー向けには、プロジェクトへの理解を深めるために JetBrains 公式の Kotlin LSP を統合した Claude Code 用プラグインが用意されています。

基調講演では、Kotlin リポジトリから収集された 110 件の実在するエンジニアリングタスクをベースにした新しい Kotlin SWE-bench が紹介されました。まったく同じプロンプトとエージェント構成を使用した場合、Claude Code と Opus 4.7 の組み合わせは 86.4% という最高の解決率を達成しました。

Koog 1.0
Koog のテクニカルリードで開発者でもある Vadim Briliantov 氏が基調講演を引き継ぎ、耐障害性・拡張性を備え、エンタープライズに対応した AI エージェントを全面的に Kotlin らしいコードで構築できる Kotlin AI エージェントフレームワークについて話しました。Briliantov 氏は Koog 1.0 の安定リリースを発表しました。これはバックエンド、モバイル、マルチプラットフォームアプリケーションにわたって本番環境に耐えるエージェントを Kotlin で開発する上で重要なマイルストーンとなるものです。

このプレゼンテーションでは、型安全なワークフロー DSL を通した信頼性の高い AI システムの構築、長時間実行されるエージェントの永続化と復旧、さらには Spring AI、Ktor、各種の可観測性ツールなど、既存の Kotlin エコシステムとの緊密な統合に対する Koog の手法に焦点が当てらています。紹介されたケーススタディの 1 つに Mercedes-Benz があります。同社のチームは Koog を使用し、体系的なワークフローと入念に管理された実行ロジックを備えた車両メンテナンスサポートエージェントを構築しています。ケーススタディの全文はこちらに掲載されています。

Briliantov 氏は Google の Gemma モデルを使用する Android のマルチプラットフォームサポートとオンデバイス AI 機能も紹介し、Kotlin がモダンな AI 搭載アプリケーションを構築するための統一言語としての地位をますます高めており、バックエンドサービスからモバイル体験に至るまであらゆるものが Kotlin で書かれるようになっていることを強調しました。
バックエンド開発のための Kotlin
基調講演は Ktor、kotlinx-rpc、Exposed の新機能など、バックエンド開発向けの Kotlin に関する最新情報へと続きました。このチームは Ktor を使用した AI 搭載サービスの構築に向けた Koog の統合、kotlinx-rpc での実験的なファーストパーティ gRPC サポート、さらには AI を活用した類似性検索のためのベクトル型を導入し、移行スクリプトの生成を単純化する新しい Gradle プラグインを備えた Exposed の安定リリースを発表しました。また、開発者による既存プロジェクトから Exposed 1.0 への移行を支援する新しいエージェントスキルも利用可能になりました。
このプレゼンテーションでは各種ツールだけでなく、信頼性と長期的なサポートが不可欠な企業環境やコンプライアンス重視の環境における Kotlin の導入拡大にも焦点が当てられました。

Kotlin 2.4 以降の Kotlin 標準ライブラリには 18 か月間のセキュリティサポートポリシーが適用され、サポート期間内のすべてのリリースラインにセキュリティ修正がバックポートされます。
基調講演ではプロジェクトの複雑化に合わせて開発サイクルが 15~20% 短縮されたことを示すデータを引用し、Kotlin がバックエンドチームにもたらす生産性上のメリットにもスポットが当てられました。

このプレゼンテーションでは、Spring との継続的な連携、Spring および JUnit ドキュメントにおける Kotlin の表現の改善、kotlin-maven-plugin と Maven のオンボーディングエクスペリエンスの更新、Micrometer におけるコルーチンサポートの強化、さらには Kotlin と Java が混在するプロジェクト向けの Lombok コンパイラープラグインの継続的な安定化など、Kotlin と JVM エコシステムとの緊密な統合が強調されました。
Kotlin Multiplatform
Kotlin Multiplatform(KMP)の採用が急速に進んでおり、KMP を使用している人気アプリの数はこの 1 年で 2 倍以上に増えました。PayPal、Booking.com、Sony、Duolingo などの企業がすでに本番環境で使用しているほか、プラットフォーム間で UI を共有する目的で Compose Multiplatform を採用しているチームが増えています。
たとえば、Sony 社はヘッドフォン向けアプリの Sound Connect で Compose Multiplatform を介して UI を共有しながら、センサーやバックグラウンド処理などのプラットフォーム API を処理するために KMP を使用しています。Kotlin Multiplatform のケーススタディ全体を見渡すと、KMP で構築されたアプリケーションは現時点で毎日数億人のユーザーに使用されています。

すべてのオペレーティングシステムで IntelliJ IDEA と Android Studio 向けに提供されている KMP IDE プラグインにより、KMP を容易に使い始められるようになりました。このプラグインは優れた KMP アプリを構築するために必要なすべてを備えており、便利な実行構成、Compose コードを扱うためのツール、Swift との統合や複数言語を横断する機能、さらには AGP 9.0 のサポートを提供します。
KMP プロジェクトウィザードを使用することで、IDE 上で新規プロジェクトを直接作成することもできます。このウィザードは、各モジュールが 1 つの明確な役割を担う新しいデフォルト構造を使用するようになっています。
当社は Swift から Kotlin をより自然に呼び出せるようにする Swift Export 機能を中心とする iOS 開発体験の向上に取り組んでいます。Kotlin 2.4 では、Swift Export が正式にアルファ版に移行します。また、SPM インポートを導入して Swift Package Manager を使用して Objective-C 互換コードへの依存関係を追加できるようにしたほか、Kotlin コードからそれらの API を直接呼び出せるようにもしました。
この 1 年で Kotlin/Native のパフォーマンスは大幅に向上しました。Google Docs のコードベースで測定したところ、ビルド時間が 1 年前と比べて 25% 短縮され、ビルド時の RAM 使用量も半分以下になりました。

Compose Multiplatform
Compose Multiplatform はモバイルとデスクトップ環境で完全に安定しており、本番環境に対応しています。2025 年 9 月にはウェブプラットフォームもベータステータスに到達し、マルチプラットフォームの UI 開発に向けてさらに大きく前進しました。これらすべてのプラットフォームに対し、チームは Jetpack Compose の最新の改善や API を継続的に提供しています。この 1 年のハイライトの 1 つには、新しい Navigation 3 ライブラリがあります。これはバックスタックを完全に管理できる柔軟な Compose ファーストのソリューションであり、すでにマルチプラットフォームで安定して使用できるようになっています。
iOS では新しい相互運用 API により、ネイティブの Liquid Glass コンポーネントと Compose UI を組み合わせることが可能になり、ネイティブビューがその下にある Compose コンテンツと動的に連携できるようになりました。
Kotlin Multiplatform のエコシステムはフレームワーク自体にとどまらず、急速に拡大し続けています。klibs.io には現時点で 3,500 以上のコミュニティライブラリが登録されており、モバイル、デスクトップ、バックエンド、ウェブを横断するマルチプラットフォームアプリケーションを構築するためのツールや統合がますます充実してきています。

まとめ
KotlinConf 2026 では、Kotlin がプログラミング言語の枠を超えるバックエンド、モバイル、ウェブ、AI、マルチプラットフォーム開発のための包括的なエコシステムへと進化し続けていることが強調されました。この発表内容には、言語やツールの改良から業界での採用拡大に至るまで、開発者が透明性、安全性、生産性を高めてモダンなソフトウェアを構築できるように支援するという共通の目標が反映されています。
オリジナル(英語)ブログ投稿記事の作者: